蟹寿司事件
人の記憶というものは曖昧なもので、あの人とこの人との出来事が入り混じっていたり、誤った記憶を信じてしまっていたり。恐ろしいものです。
あれは、小学6年生くらい。父親は毎週金土の夜は遊びに行って帰ってこなかったのですが、いつもお土産に蟹寿司(蟹の太巻き)を買ってくれて、それが日曜日の朝ご飯となっていました。
ただ、蟹寿司。美味いけど子供としては少々シブい。高級なのは理解してるけど、さらに毎週だとさほど喜びも外に出せない。しかし厳しかった父が子供に与えてくれる数少ないものでもあり、僕は子供なりにありがたくいただいていたのでした。
そんな蟹寿司とお別れする日は突然やってきました。ある日曜の朝、いつものように母親に起こされて二階から階段を降りていると、前を降りる妹が寝ぼけながらこう言ったのでした。
『(ケッ)また蟹寿司か』
*(ケッ)ってのはイメージ。で、それを聞き逃さなかった、母か父が激怒。
『どれだけ贅沢になっているんだ!朝ご飯食べれない時代もあったんだぞ!』
そりゃそうです。だから僕は、ちゃんといただいていました。
『それを、また蟹寿司かぁ?とはどういうことだ!おまえら二人にはもう一生なにも買ってこない!』
んん!?おまえら二人?なんで俺も言ったことになっているんだ?いやいやお父さん、僕は言ってないよ!
『でも、お兄ちゃんも、もう蟹寿司飽きたよね、って言ってたもん』
妹!!!こいつマジ殺してやろうか。結局、子供に贅沢を覚えさせてはいけない、と両親はあらためて思ったようで、それ以降蟹寿司は日曜の朝ご飯として登場することもなく、さらに厳しい子供時代を過ごすことになったのでした。
で、この前実家に帰った時、その蟹寿司事件の話になったのです。
『蟹寿司のアレあったよねー』
『お父さんが凄く怒った奴ねー』
『真史が、ケッまた蟹寿司か、って言っちゃったんだよねー』
って、おおおい!なんで俺になってるんだ!いもうと、でしょう、妹!
『いやいや真史だよ』
驚く事に両親ともに僕が言ったと言うのです。ちょっと、ちょっと待ってくれ。俺がそんなアホなこと子供だからって言うはずがない。幼稚園の時から、両親にも気を使って一度もおもちゃをねだった事などないこの気遣い坊やが、そんな簡単な状況を把握せず自分の気持ちを吐露するはずないでしょう。
でも信じてくれない。いやー恐ろしい。人の記憶というものはこうも簡単に変えられてしまうものなのか。でも、もう納得いかなくて、いかなくて。その場で母親に妹へ電話をしてもらいました。
『うん、うん、うん。あーそう。うんうんそうだよね。わかった。はーいバイバイー』
ガチャ。ほらね、アイツでしょう?
『うん、なんか言ったのは確かに私だけど、お兄ちゃんが「うん、嫌だよね」って言ったのを、お父さんが聞いてて、ふたりとも怒られたんだって』
妹!!!!!30年経っても道連れにするか。いやいや、もう余計納得できなくて、再度電話。自分がすると、これはマジ喧嘩になるから、またしても母親に依頼。
『うんうん、フフフ。そうだよね。わかった、そういっとく。はい、バイバイー』
なに、なんて?なんかさっきちょっと笑ってたのが気になるけど、なに?なんて言ってた?
『なんかね、そんな細かくは覚えてないしね、まあお兄ちゃんがそういうならそうでいいわ、って』
!!!!!!!!なんだその戦わずに勝った感じは!!!過去じゃなくて、いま異常にムカつく!いや、こういう奴だから、ダマされてんだよ、みんな!俺が、蟹寿司いったんじゃないって!
で、ある時突然父親が『あれは一恵(妹)が言った』と言い出し、僕の濡れ衣が晴れていきなり「蟹寿司事件」解決。もしや父親が助けてくれた?と思い聞いてみると『いやなんか、急に思い出したんだよね。ホント』とのこと。なんか記憶って変だね。とりあえず、よかったよ。喰いたいね、蟹寿司。
-BIG LOVE -仲真史
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2011 08 01 [グルメ・クッキング日記・コラム・つぶやき] | 固定リンク